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頂上に着くまでに、色鮮やかな花から惨い風貌の虫たちまで、色んなものが視界に入ってきた。その価値というものはよく分からなかったが、少なくとも自分よりは存在価値を秘めている気がした。
頂上に着くと、数人でスケッチをした。珍しい草花や綺麗な風景を描いた。僕は1人、大木を描いていた。何故かその大木にだけは目が惹かれた。何というか、普通とは違う空気を放っているのだ。神聖さが殆どだが、その中に血塗られた歴史を含んでいるような雰囲気を醸し出している。だからこれといって意志もなく、ただ惹かれるが儘にその大木だけを描いていた。
じきに、日が暮れていることに気づく。自分でも驚いたことに、数時間スケッチブックと呼吸1つ乱さず対峙していたようだ。その間は全神経をその絵に注いでいたから、周りの音も何も耳に入って来なかったらしい。
ふと周りを見渡した僕に、自らの疑問を疑う余地は皆無だった。信じられない状態に、僕は置かれていたのだ。
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