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「夕方7時20分、尾道駅前、…分かった。了解」
男は受話器を置き、近辺に自分の指紋が付着していないか確かめた。手には綿の手袋をいつもしているものの、このような職業面では、いくら神経質でも超したことはないだろう。何せ独立行動の多い闇の仕事だ。近くに周りを警戒してくれる心強い仲間がいるというわけでもない。自分の身は自分で守る、それが何よりも大切な礎なのだ。
電話ボックスを出て、周りを見渡す。怪しい者──あくまで彼にとってだが──はいないようだ。安全を確認し電話ボックスから数歩 離れたところで、腕時計を眺める。4時20分。約束の時間までにはあと3時間ほどあるから、今から新大阪駅を電車で出れば時間に関しては余裕がある。任務を終えたらすぐ、あらかじめ広島に停めてある会社の自動車に乗り込んで千葉にある本社に向かうだけだ。これほど単調な仕事も、ここ数年では滅多にない。
男は徐に携帯電話を取り出すと、アドレス帳から宛先を1つ拝借して発信ボタンに力を込めた。
「…龍一、聞こえるか?今 千秋に連絡を受けた。ったく、何で本社とは無線で繋がらないんだ」
「…当たり前だろう?今お前のいる新大阪と本社の距離的な差を考えろ。でも…まぁとりあえず…仕事は気楽にやりなよ?距離が離れていても援護は出来るからさ」
イヤホンから聞こえる声は、冷たい表情をしていた。
「…はっ。気楽にだと?んなの暗黙の了解だろうが。でないと色んな面で不具合が生じるからな。第一、俺は昔からお前より冷静だ」
「…そうか。ならいいけど」
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