‐序章‐

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   蝉が鳴く。  ミーンミーンミーン・・  耳を澄まして聞きながら、足元へと追いやったタオルケットを腹の上へ引き戻し、目を閉じる。そうすると、直に後頭部を中心として徐々に浮遊感が全身へと広がっていく。    まどろみの一歩手前、意識の中の無意識。    この感覚に、僕はそう名前を付けた。  まるで世界に溶け込んだかのような一体感を感じながら、もっと深い所へと潜るように、浮かぶように進んで行く。  窓の外でスズメかハトか、良くは分からないが恐らく鳥と答えて間違いは無い囀りが聞こえて来て、僕の意識は徐々に覚醒し目が覚める。  まただ、ノロノロとした動きで枕元に置いてある携帯電話を取る。 「まだ5時じゃないか…」  そう呟くも、それに何かを投げ返してくれる者は誰も居ない。何せ、今この1LDKの空間には生き物と呼べるのは自分ひとりなのだから。  まぁ、たまに真っ黒で小さなレジスタンスが自己主張をするために現れたりはするものの、存在は認めたくないので生き物にはカウントしないけど。    この9月から転入する高校から電車で1時間、バスにのって40分、その後に歩いて15分の場所に僕の唯一の安息地であり、守り抜くべき 城、自宅がある。城という割には少々小汚いかもしれないが。  まぁ健全な男子高校生からすれば、1人暮らしというだけで一国一城の主の様な気分になっても仕方ないだろう。    話は変わって、僕は一度起きてしまうと寝付くのが困難な性質を持っているため、登校予定の時間まで1時間以上あるが、渋々ベッドから起き上がる。  ・・まただ。普段であれば遅刻ギリギリまで寝ているような性格なのだが、ここ最近、特に夏に入ってからは寝つきも悪く起床も早い。その上、睡眠が浅くなっているらしく疲れも取れない。夏特有の暑さのせいではなく、夏バテという訳でもない。  何か自分の中で歯車が空回りしているような違和感を日に日に感じつつ、冷蔵庫の中で冷やして置いた牛乳をコップへと注ぎ一気に飲み干す。
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