穴の底から

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   ここから空を眺めて、もうどのくらいになるだろう。  時には雨が容赦なく降り込み、時には直射日光に炙られた。細長い竪穴の底で、ボクは朽ちている。  穴の輪郭は長年の風雨に均され、今ではすっかり円くなっていた。  穴を掘ったのはボクだ。  もう、何年も、何年も、ずっと昔の話。  情報は正しかった。  この島には、間違いなく宝が隠されている。探検に明け暮れた日々の末、ようやく辿り着いたんだ。  その狭い穴で、ボクは座り続けている。  でも諦めない。あの穴から、希望の影が差す事を。  そして、それが今日叶う。 「この島で間違いないんだろ?」 「ああ、俺達の爺さんはここで消息を絶ってる」 「穴があるぞ」 「どれ、中を見てみようか」  ああ。その影は、ボクの父さんの面影を、強く残していた。  さあここに来てくれ。  ボクを連れて帰ってくれ。  キミたちには、このポケットの中身をあげよう。ボクにはただ、安臥を与えてくれれば良い。  待っていたんだ、キミ達を。  もう、何年も、何年も。
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