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彼との出会いは憂鬱な雨の中だった。私は落ち込んでいたわ。愛した人が逝ってしまったから。
何日も泣いたけど仕事は休めない。空虚な身体を引きずって、いつもの通勤バスに乗ったの。
その時、落とした定期券を彼は拾ってくれた。そして優しく微笑んでくれたの。
笑顔を見た瞬間に運命の人だと分かったわ。きっと彼も気付いた筈よ、そんな微笑だったもの。
彼は野球が好きなんですって。私詳しくないけど、頑張って覚えるね。
車も好きなの。何台も乗り換えて借金があるけど、私は気にしない。私も働くし、お金なら大丈夫。
でも最近彼元気が無いの。ご飯も食べて無いみたい。心配だから彼の家でご飯を作ったわ。気合いを入れて頑張っちゃった。本格的なキーマカレー、喜んでくれるかなぁ。
それから毎日の様に作ってるの。最近肉料理が続いたから、今日は野菜炒めにしようかしら。きっと文句を言うわね、でも野菜も食べて貰わなくちゃ。
彼を訪ねると、やっぱり憔悴しきってた。
「お前誰だよ、いい加減にしてくれよ!」
何を震えているの? ああ、きっと疲れているのね。早く元気になって貰わなきゃ。
「すぐご飯作るわ、今日はお野菜だけど我慢してね?」
私はあの日の彼のように、優しく微笑んだ。
私の運命の人。
今度は逃がさない。
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