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夕焼けに染まる教室へ駆け込んだのは、忘れ物を取りに戻った一人の少女。窓からは練習に励む野球部が見える。しかしその中に、最近気になる彼の姿は無かった。
「残念」
諦めて机を覗くと、中に課題プリントが一枚見える。これを取りに戻ったのだ。拾い上げて鞄に滑り込ませる。ほっと一安心し顔を上げると、廊下からこちらを伺う少女が見えた。
「え?」
瞬く間に姿が消える。しかし、間違いなく見慣れた自分だ。鏡のように寸分違わぬ少女が、確かにこちらを見ていた。
「……やだ……嫌だ嫌だ嫌だ!」
湧き上がる恐怖に声を震わせながら教室を出る。廊下へ出ると同時に、階段へ消える後姿が一瞬見えた。
同じ髪型の、同じ制服の、同じ背丈の――――自分。
ダメだ、きっとあれに会ってはいけない。それは少女の直感だった。踵を返し一目散に走り出した、その瞬間。
ドンッ。
思わぬ衝撃と共に弾かれたそこに、二人目の少女が立っている。
彼女は微笑んで言った。
「やっと出られたわ、……ありがとう」
その微笑の先には、もう誰も居ない。まるで夕闇に溶けたかのように、はじめの少女は掻き消えていた。
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