ポケットの中

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   掌に、卵がひとつ。中からはコツコツと音がする。察するに直孵るのだろう。  知らぬ間にポケットに入っていた卵を、私はそのまま持ち帰った。  何処で紛れ込んだものか少し不気味だったが、好奇心が勝った結果だ。割れてしまわぬよう、そっと机へ置いた。  何が孵るのだろう。  青い殻はつるつるしていた。あれこれ頭を捻りつつ、高揚感に口元が弛む。その時、音に合わせて卵が揺れだした。  コツッコツッ。  思わず身を乗り出すと、卵は唐突に甲高い炸裂音を発した。 「わあっ!」  反射的に目を瞬き飛び退る。殻に入った無数のヒビは、驚く事に発光していた。まるで太陽の卵だ。  それは聖なるものだという直感があった。綺麗で、見ていると安らぎに満ちていく。ああ神様――と、手を伸ばした。  その刹那、ヒビ割れた破片が崩れる。光の氾濫が音も無く私の手を溶かす。  じわじわと体躯を光に溶かされながら、消滅の恐怖も安らぎに溶ける。最後の呼吸を吸い込み、私は光の一部になった。  コトリ。  光が治まった部屋の中に、卵がひとつ。  青い殻はヒビ一つ無く、一瞬揺れたかと思うと消えた。  次は貴方のポケットへ。
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