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カタン。筆が置かれる。
「アイ?終わり?」
「んー?んふふふ」
指をぎゅうぎゅうと揉みながら笑う。
もう終わりらしい。
雰囲気作りの眼鏡を絵の具でベタベタになった手で外そうとするものだから慌てて止めてタオルで拭く。
「ねぇ兄ちゃん」
「うん?」
「シュークリームって美味しい?」
「うーん人によるよねぇ……どうして?」
「サンちゃんが女の子はみんな好きだって」
「サン?」
「サンちゃんね、私の眼鏡洗濯機に落として割っちゃったんだって。それでお詫びに今度買ってきてくれるって」
そんなに気にしなくていいのにね!
この子にとっては眼鏡は集めることに意味がある訳で、お気に入りこそあれど壊されたことは本当にそんなに気にしてはいないんだろうけど、そこはほら。
「みんな」と言う言葉に弱いこの子のことだから、きっと特に突っぱねもしなかったんだろうなぁと思う。
「兄ちゃんも一緒に食べようね」
「そーだねぇ、じゃあ珈琲とかの方がいいかな」
「何で?」
「甘いから。すっごくね」
パチン。
イーゼルを畳むのと同時に何かに反応したアイがくるりと首を回した。
「イブ、ファイ!」
「あ い、にぃ、 」
こんにちは。にっこりと笑ったのは、声を聞くよりも早くこの子が名前を呼んだ女の子。
足音で大体誰彼分かると言う、少しだけ自慢気な横顔が可愛い。
曰くこの二人はいつも足音が二人分だから絶対間違えないらしい。うんうん、すごいなぁ。
「いらっしゃい」
笑うアイに、イブもまたにっこりと笑いながら長いクリーム色の髪を揺らして歩み寄る。
無言で付いていくファイは、大きなゴーグルと帽子で相変わらずほとんど顔が見えない。
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