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何か、忘れている気がする。
ふいに怪しげな格好の店主の顔が脳裏に浮かんだ。
「あ」
と思わず声をあげた。
重い身体を起こし、のろのろと机に向かう。
箱と花が出かけたそのままの状態で置かれていた。
が、当の本体がどこにも見当たらない。
「ない。確かにここに置いたはずなのに」
落ちたのかと机の下を覗いても、ゴミ箱の中を探っても、パオの姿はない。
『パオは寂しがり屋じゃからな。ちゃんと構ってあげとくれ』
ジジイの言葉がやけに哀しげに響いて聞こえる。
失くしたなんて言ったら呪われそうだ、と思ったのは半ば本気だった。
それに、後味が悪い。
机周りにないとみると、部屋中の捜索をし始めた。
引き出しの中、ベッドの下、棚の中、ついにはタンスを動かして裏を覗いたが、出てくるのは埃とゴミだけ。
小一時間程探索すれば狭い部屋のこと、もう探す場所は尽きていた。
「なんでないんだよ・・・」
部屋の中央に棒立ちのまま、諦めかけようとしていた。
『今は全てを忘れて人形のようだが、名を付けぬくもりに触れることで、きっとパオはこころを取り戻すじゃろう』
確か、ジジイはそう言っていた。
人形に名前って、ガキのすることかよ。とその場で俺は笑ったのだった。
あれは人形だ。呼んで返事する訳ないじゃないか。
でも・・・・
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