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「・・・トト?」
恐る恐る呼びかけてみた。
「トト。いるなら出てこいよ」
静まり返った部屋は、声がよく響く。
「トト」と、もう一度名を呼んだ。
が、やはり返事はない。
時計の針がカチコチと時を刻んでいる。
ふ、と苦笑が浮かんだ。
「・・・当たり前だよな。俺、何やってんだか」
がしがしと頭を掻いて、電気を消そうとした。
と、その時。
ことり、と音がした。
驚いて振り向く。
散々探したはずの机の上に、箱に隠れるようにしてトトがいたのだった。
覗いた方の目で、おずおずとこちらを見ていた。
「お前・・・」
何の感情もあらわさないその表情に、「寂しさ」や「不安」といった色が見え隠れしているようで。
今更になって、ひどいことをしたと後悔が胸を突いた。
「トト」
今度は優しく名を呼び、そっと触れようとした。
しかしトトは怯え、手を避けるようにして箱の裏側に顔を隠してしまった。
つきり、と胸が痛む。
「その・・・ごめんな?悪かったよ構ってあげなくて」
本心だった。
素直な、心からの詫びだった。
「こわかったよな?いきなり知らないとこに一人きりだもんな。本当に、ごめん」
そういってから、頭をさげた。
ゆっくりと顔をあげれば、トトが小首を傾げてこちらを見上げていて、それがこちらを心配するように窺えて。
「許して、くれるのか?」
そう問いかければ、つい、と一歩前にでて反対に首を傾けた。
その所作に、安堵からか思わず笑みがこぼれてしまう。
そろそろと手をのばす。
今度は、逃げなかった。
そっと頭をなでてやると、トトの方から僅かに頭をすり寄せてくるのがわかった。
その愛嬌に、思わず目を細めた。
「ありがとな。これからよろしく」
優しくされたのは、俺のほうだった。
end.
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