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パオとの生活が始まって1週間が経とうとしていた。
トトは変わらず人形のような表情で、窓から外を見ているか、箱の中に入っているかのどちらかだった。
頭をなでると時折気持ちよさそうに目を閉じるが、それ以外のトトの表情というものを見たことがなかった。
「パオって、無表情っていうか、あんまり動かないものですかね?
まぁ、世話は楽だけど...」
怪しげな店の店主に相談を持ちかけてみた。
店主は何か作業をしているようで、その手を止めることなく答える。
「元来、パオは大人しいモノノケじゃが、喜怒哀楽の感情もあれば表情もある。
また好奇心が強く、いたずら好きという性格を持っておるな」
意外だった。
パオ自体がそういう生き物なのかと、そう思っていた。
「ウチにいるの、全然動かないんですけど?」
店主はふいに作業する手を止めた。
「あれはこころを失くしておる」
「前にも言ってたけど、それってどういう...?」
照明の加減のせいか、店主の顔が更に暗く陰る。
「過去にある出来事があって記憶をなくしたといったろう?」
「はぁ」
「失くしたのは記憶だけではない。
それ以来、あれは楽しいとか嬉しいとか、喜びを感じることができなくなってしまったのじゃ」
「今、あれのこころを支配しているのは、そう、『寂しさ』じゃ」
「さびしさ...」
店主は、風に消えてしまいそうな声で「あれは優しすぎるのじゃ」と付け加えた。
じじ、とロウソクが燃える音が響いた。
自分が思っていた以上に、トトは重いものを抱えているのかもしれない。
それは、自分などではとても手に負えないもののような気がしてきた。
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