笑顔のその先に

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「あの、やっぱり自分にはムリっスよ」 気づけば、そう切り出していた。 「その...なんていうか。俺、学校もバイトもあるし、あんまり構ってやれてないし。 もっと時間に余裕があって、トト...パオのこと可愛がってくれる人のほうが...」 「その方が、あいつの為になるんじゃないかって...」 店主は黙っている。 じっとこちらを見つめられ、たちまち身の置き所をなくしてしまった。 気まずい空気が流れ、ひどくいたたまれない。 と、店主は視線を作業台に移し、店にきたと同じに作業を始めた。 「寂しさを拭ってやろうなどと驕った心持ちでは、あれの傷は癒えぬよ」 とぽつりとつぶやき、ふ、と笑んだ。 「は?」 意味がわからず聞き返した。 「心を寄り添わせることじゃ。分かち合い思いやることじゃな」 「はぁ...」 わかるようなわからないような。 「俺、何もしてやれないですよ...」 「何もせんでええ。ただ傍にいてやればええんじゃ」 「や、でも...」 尚も食い下がる言葉を切って店主が続ける。 「こうして出会えたのも何かの縁じゃろうて。 せっかく繋がった縁をここで切ってしまうのは余りにもったいなかろう」 に、と口の端を持ち上げて笑ってみせた。 「どうじゃ?もう少しあれに付き合ってみてはくれんかの?」 「嫌か?」 嫌かと問われて、嫌ですとは言えず、あとはもう頷くしかなかった。 その様を老獪な店主は満足げに見て続けた。 「お主があれに興味を持ってくれて嬉しいよ」 「や、興味っていうか...」 「よい兆候じゃ」といって老人は、ほほと笑った。
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