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家に帰ると、トトはお決まりの定位置に行儀よく座っていた。
店で買った花を机に置いて、「ただいま」と声をかけた。
トトは目だけでこちらの姿を追い、そしてまたどこと知れない場所を見つめる。
そんなトトの様子に、つい眉をあげて息をつく。
トトは人形のように動かない。
その目が映すものがわからない。
気分をかえようと音楽をかけることにした。
CDを適当に選びながら声をかけた。
「花、買ってきたけど喰う?」
トトはこちらをじっと見ている。
どうやら食べるらしい。
ひとつずつ、花を千切っては食べさせてやる。
単純作業を黙々とこなしていると、ふいにトトの動きがぴたりと止まった。
「どうした?」
覗き込んでもトトは返事をしない。
「トト?」
トトの目線の先にはMDコンポ。小首を傾げてじっと見つめている。
かかっていた曲が終わるまで、トトはそうしていた。
次の曲へと移ると、トトは何かを嘆願するかのようにこちらを見上げてきた。
「さっきの曲?もう一回聴きたいのか?」
トトがこくりと頷く。
驚いた。
こちらの呼びかけに、はっきりと反応を示したのはこれが始めてだった。
リモコンでもう一度同じ曲を再生する。
トトはぽてぽてとスピーカーの前まで歩み寄っていく。
目を閉じて、まるで耳を傾け聴き入っているかのよう。
曲が終わればまたこちらを見上げてくる。
リピート。
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