笑顔のその先に

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「お前、この曲すきか?」 問いかければ、こくりと返してきた。 「そか」 トトと一緒になって音楽に耳を傾ける。 「...俺も、この曲が一番すきなんだ」 トトの頭をなでてやりながら独り言のように続けた。 「すげーいい歌だよな。 俺さ、この曲聴くとなんか元気でるんだよな。 ヘコんだ時とかにさ。よく聴いてた」 つらつらと言葉が出る。 こんな風にトトに話かけること、今まで一度もしなかった。 「曲もいいけど、歌詞がすげーいいんだ。 つってもお前にはわかんないよな」 そういって笑いかけると、トトは反論するかのように頭を振った。 その仕草があまりにも可笑しくて、声をあげて笑った。 「お前、いい趣味してるよ。 俺たち、気が合うのかもな」 トトを見てにっと口の端を持ち上げた。 だが、その笑顔は一瞬の内に驚きと共に消えた。 トトが、笑っていた。 にっこりと、こちらを見て嬉しそうに、本当に嬉しそうに笑っていた。 ぐっと、喉の奥につまるものを感じた。 正直、思ってもいなかった。 自分がこんな感情になるなんて。 ただ、嬉しかった。 笑いかけてくれることが、こんなに嬉しいと思えたのは、はじめてだった。 「なんだよ。お前...」 声がちょっと震えてるのが自分でもおかしい。 「何笑ってるんだよ」 トトの頭を軽く小突いて、笑った。 トトも笑った。 きっと、うまくいくさ。そんな気がした。 こころを寄り添わせる。 きっとそう難しいことじゃないよ。 end.
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