煙草

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煙草の香りが心地良い。 俺はソファーにもたれ掛かった。 "ブランド志向のあなたにはDUNHILLがピッタリでしょ。” これをくれたあいつの笑顔が目に浮かぶ。 清楚で可憐でかわいかったあいつ。 今となっては懐かしい…。 「DUNHILLの煙草ね。あなたらしい…。 でも、ジェイは禁煙家じゃなかった?」 後ろのドアから出てきたシェリーが話し掛けてきた。 俺ら3人は3LDKのマンションをルームシェアしている。 リビング、キッチン、お風呂場、トイレは共同スペースにし、 念のため各部屋には鍵を取り付けた。 シェリーの部屋はソファーの後ろある部屋だ。 「昔は俺もシェリーと同じくらいのヘビースモーカーだったんだよ。」 灰皿に置いた煙草を取り、火を消した。 「そうなの? 意外だわ。 潔癖症だから、そんな不健康な煙草を吸うイメージがなかったわ。」 「おいおい、潔癖症だからと言って、健康主義とは限らないだろ。 どんなイメージだよ。」 俺は笑って言った。 「それはそうね。」 シェリーが俺の隣に腰掛けた。 「本当にいいの?ジェイ。」 「ん、なにが?」 「ハチと私に何か隠してるでしょ。 指輪の話をしたとき、ハチが明らかにおかしかった。 本当は指輪、盗みたくないんじゃない?」 心配そうに俺の顔を近付けるシェリー。 そのポーズはかわいい子猫のようで 俺の本能をくすぐる。 俺はシェリーの頬に手を添える。 「君は本当に勘の良い子だね。 時には人は鈍くあるべきとも、俺は思うよ。」 「その "時”は今ではないと、私は思ったんだけど。違ったかしら? ジェイは何を隠してるの? ハチは昔と変わらなく素直なのに、 あなたは霧に覆われ何一つ見えないわ。」 .
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