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『――じゃあ、次に会う時までの、宿題ね』
そう言って、君は笑った。
『…………うん』
断ることなんて、できなかった。
僕なんかが見つめたら、目が潰れてしまうのではと思うほど、その笑顔は眩しくて。
それでも目を逸らすことも笑い返すことも出来なかったから、ただ君を見つめるしかなかった。
咲き始めた桜の花びらと、君の長い髪が揺れている。
ふと、ひとひらのちぎれた薄紅が僕の前を横切って、ほんの刹那そちらに意識を奪われた。
視線を君に戻した時、その表情は今にも泣き出しそうなものに変わってて。
それなのに何も言うことができなかった。何を言うべきなのかもわからなかったんだ。
そんな僕を突き刺すように、頑張って絞りだした、それでもはっきりとした君の言葉が。
『だから、さ――――――』
目覚まし時計の、時間を破裂させる音で、彼女の声は遮られた。
午前7時。
散らかった僕の部屋は、カーテンの隙間から漏れる朝日を浴びてもまだまだ暗い。
ぐしゃぐしゃになった髪をかきあげながら、僕はゆっくりと身体を起こす。
「…………ずいぶん……懐かしい夢を見たものだな……」
自分の他には誰もいない部屋で思わずそう呟いてみたけれど、それが本当は嘘だということをわかってた。
懐かしくなんてない。今まで忘れたことなどないのだから。
あの日、君は『さよなら』の代わりに、その言葉を残していった。
だから、あれから僕は君に会えないでいる。
果たせるはずの無い約束を抱えたまま。
春香。あれから、もう七年も経ったんだよ。
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