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いつもと同じように、乾いた食パンを少しかじり、見苦しくない程度に身なりを整え大学へと向かう。
今日も満員電車に詰め込まれた大人たち皆の目は死んでいる。きっと僕もそんな顔をしているだろう。
大学に着いてみれば、そこは若さと夢に溢れていて、学生達の永遠とも思える未来を映した目は希望でキラキラと輝いているのだ。
だけど僕の顔には憂鬱が張りついたまま。
永遠という時間はまるで底なし沼のように感じられて、這い上がろうともせずただ静かに沈んでいく。
そのまま沈んでいけたなら、一体どこへ行けるんだろう?
「……ぼんやりし過ぎた」
気付くと僕は1限の講義を受けていた。正直自分が教室に入ったことさえも覚えていない。
状況を把握しようと辺りを見渡すと、少し違う雰囲気を教室に感じる。いつもより生徒の数が多いのだ。
そういえば、今日はこの講義のレポート提出日。それも授業後に提出だ。単位に関わるのだから普段来ていない人も当然出席する。
人口密度が高くなった教室に窮屈さと息苦しさを感じて、わずかに苛立ち始めた、その時だった。
「すびばせん……」
突然隣から聞こえた、小さく震える声。 振り向くと、目に涙を溜めた小柄な女の子がこちらを見つめていた。
「あの、この講義の宿題、今日まで……でしたよね……? 教えて……くれませんか……?」
そう言い終わると、彼女は子供のようにぽろぽろと泣き出した。
春香は、僕より一つ年上で、幼なじみだった。
彼女だけが僕に笑いかけてくれ、僕も彼女にだけは笑うことができた。
僕らはずっと一緒、だったんだ。
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