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「はじめ君……?」
僕を呼ぶ、声。
「え……と。まだソース付いてるかな?」
少し不安そうな表情をした沙羅が、おどおどとこちらの様子をうかがっている。
僕は一体どんな顔をして彼女を見つめていたのだろう。
「……いや。ただ、沙羅が僕の幼なじみに少し似てるなって思って」
咄嗟に本当のことを言ってしまったが、この発言がとても失礼なものだということに気付き、思わず手で口を覆う。
しかし予想に反し、沙羅は目を輝かせて身を乗り出してきた。
「そうなんだぁ! その人どんな人?」
話を流してしまうには、あまりにも輝き過ぎていた沙羅の目。
僕は覚悟を決めてすぅと息を吸い込み、何を話すべきかに意識を集中させる。
すると春香との思い出が溢れてきて、思っていたよりも滑らかに言葉がこぼれた。
「そうだな……頭が良くて、とてもしっかりした人だった。僕に、勉強とか教えてくれてたんだよ。黒髪が綺麗で、背も僕よりは高かった」
「それだけ聞くと、似てないよね?」
「少しだけ、だからね。そして、彼女は本当に優しかったんだ」
僕の話を真剣に聞く沙羅。
「嬉しいなぁ。今まで、はじめ君が自分の話してくれたことなかったから」
そう言った彼女の表情は本当に嬉しそうだった。
だけど。
「その人は今、どうしてるの?」
その一言で、回想の中で笑ってる春香の姿がふわりと消えた。
気付くべきだった。春香の話題を出してしまえば、それを聞かれること。そしてその一言を言わなきゃいけなくなることぐらい。
でもどうしようもない。嘘をついて誤魔化せる程、僕は器用ではないのだ。
「……もういない」
「え…………?」
「死んだんだ」
僕が中学校に入学した年、春香は治ることのない病気を患った。
そしてついに彼女は遠くの大きな病院へ入院することになり、お見舞いなど許されるはずのない僕にとってそれは永遠の別れを意味していた。
『幸せに、なること』
このまま永遠に春が続くのではと思う程、澄んだ青空の下。
『じゃあ、次に会う時までの、宿題ね』
そう言って笑った春香の笑顔が消えて。
『だから、さ』
『創は、死なないで』
春香の瞳から一筋の涙が零れ落ちて、強い風が僕らを包んだ。
その瞬間多くの花びらが舞い散る中で、ただ僕だけが時間の中に取り残された。
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