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人目も気にせず、走った。
普段運動など全くしないものだから、脇腹は痛くなりすぐに息もあがる。
しかしそんなことは気にならなかった。沙羅が心配、それしか頭になかったのだ。
『やっぱり私は誰かに迷惑かけることしかできないね』
沙羅の今までの会話の端々から、彼女が自分自身を嫌っていることにはなんとなく気付いていた、はずだった。
だけど、彼女は本当にきれいに、笑ってみせるから。
本当は、わかっていたんだ。苦しんでいるのは僕だけではないことぐらい。
笑っている人も、幸せそうな人も、みんな多かれ少なかれ何か悩みがあって、それでもちゃんと未来を見つめてて。
それなのに、僕は。
だから、伝えなければ。
『気にしないで』とか、そんな曖昧な言葉じゃなくて、きちんと僕の言葉で。
十分程走り回った頃、街路樹の陰にうずくまって、苦しそうに息をしている沙羅を見つけた。
「沙羅!」
僕の声で振り返った彼女の頬には、まだ乾いていない涙の跡が残っている。
「はじめ……君……」
「泣かない……で、沙羅……ごめん」
完全に息が切れてしまったので、うまく話せない。
「ごめん……なさい……」
僕が肩で息をしている間にも、彼女はまた謝ってくる。
謝らないで。頼むから。
なんとか息を整えると、僕は力を込めて言った。
「迷惑だなんて思ったこと……ないから」
まだ目を潤ませたままの沙羅が、こちらを見つめている。
僕もそれを見つめ返す。そして、伝えた。
「だって僕達、友達じゃないか」
見開かれた彼女の瞳に映っていたのは紛れもなく、笑った僕の姿。
沙羅や春香みたいにうまく笑えないから、それは本当にぎこちないものだろうけど。
「僕は、いや、僕が。沙羅と一緒にいたいんだ」
その言葉を聞いて、再び沙羅は泣き出してしまった。
きっと彼女は、不安だったんだと思う。僕と出逢う、ずっと前から。
そんなことを考えながら、彼女の様子を見守っていたが一向に泣き止む気配がない。こういう時どう接すればいいのだろう。
ふと、春香の姿が浮かんだ。
膝を抱えてた僕に、彼女はいつも――
僕は少しためらってから、しゃがみこんだままの沙羅に、そっと手を差し出した。
「さあ、戻ろう」
その手を、沙羅が握る。
温かい、と思った。
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