委員長の追憶③

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「お母さん、このお菓子って…」 「そうなの!デパートの期間限定のやつ」 「ですよね。ずっと食べてみたかったんです」 ほくほくとテーブルに置かれた焼き菓子を一口頂く。 うん、甘さが絶妙。 「で、宗谷くん。桜とはどんな…」 「すごく美味しかったです」 「え?」 …え。 「食べちゃったの、桜」 桜と同じまっすぐな瞳が丸くなる。 待て待て。 会話が噛み合ってないぞ。 自分が食べたのはこの焼き菓子だけですって。 「お母さん」 「ふふ、冗談よ」 全く持って笑えません。 そう思いながら桜母に返したのは苦笑いだったのだが。 「最初見たとき女の子かと思ったわ」 無言で自分の今日の服装を確認する。 Vネックのシャツに緩めの暖色のパーカ。下は七分丈のパンツで裾は紐でリボン結び。 はいオシャレな男子高校生とは程遠いなこいつ、なんて思った人挙手ー。 「あはは」 なんて返すべきなんだ、この場合。 友達の母親に女の子に間違われた件について。 そんなときの対応の仕方なんか俺の辞書にはありません。 「遠目で見ると千歩くらい譲って女の子に見えるかもしれないですよね。全体的にシルエットとか」 「初対面かなり近くだったけれど」 あえての言い訳、一刀両断。 桜母が柔らかく微笑む。 ああ、母親の顔だ。 「ごめんなさい。失礼なこと言ったわね」 「いえ。小さいときはよく間違われていたので」 あ、口が滑った。 あれは過去の汚点だ。 うう、と眉を寄せたが彼女の笑い声にあわてて表情を戻した。 .
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