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「あれっ、サク今日早いな」
教室にもぼちぼち人が増えてきた。
自分の前で聞こえた声に、桜はゆっくりと顔を上げた。
「…三谷、おはよう」
「おう、はよー。なに寝てたの」
よほど寝ぼけた顔をしていたのだろうか、三谷は笑いながら言った。オレの前の席に軽そうなカバンを掛けて、どかっと座る。
「ヨユーだな。一限から抜き打ちあるらしいぜ、タカが職員室前で言ってた」
「へえ、英語か」
タカとは英語を教えてるオッサン。もうお分かりかもしれないが、タカとはハゲから由来している。
三谷はうげーっと奇声を上げたかと思えば、じっとこちらをしかめっつらで睨んでくる。
「なんだよ」
「サクはいいよなあ、この帰国子女め」
「はいはい」
もう何度も聞いた台詞にめんどくさそうに返事をする。父の仕事の都合で、十四歳まではアメリカにいたのだ。つまり日本の学校に初めて通ったのは中三のときのこと。
といってもフツーに日本人だし、英語が話せるといっても少しだけ。もちろん、それが理由で女にモテたこともなかったが。
「テスト中にさ、電波かなんかで俺に答え教えてよ」
「電線切れてるからムリ」
「電線とかどこにあんのよ」
「小指とか?」
オレはにやっと笑って言った。
赤い糸かよ、なんてくだらない話をしているうちにチャイムは鳴った。
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