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同じ部屋にいながらも桜はベッドに寝転がって雑誌を読み、俺はというとCDの山を切り崩しているところだった。
会話はたまにぽつぽつと交わされるだけで基本静かすぎるほどだったがその沈黙は決して気まずいものではなく。
穏やかに、生温いような温度を持って時は過ぎていく。
その時間が唐突に終わりを告げたのはドアのベルが鳴る音。
ちらっと桜に視線を遣ったが動く気配はない。
あれ。
「桜、来客みたいだけど」
イヤホンを外し、ベッドに近寄った。
当の本人は大きめの雑誌を開けた状態でなぜかそれは顔に覆いかぶさっている。
もしやこれは。
「ちょっと失礼」
ベッドに手をつき、桜を覗き込むような姿勢でゆっくりと雑誌を顔から放した。
「…なんてベタな」
案の定というか、爆睡。
雑誌を閉じる余裕もなく力尽きて眠り込んでしまったらしい。
さて、どうしようか。
体重がかかり、ベッドがぎしっと音を立てた。
そのまま慎重に体を寄せていく。
「……」
ガチャ。
「桜、いるなら玄関開けなさいよ。荷物多くて鍵出すの大変だったんだか、ら…?」
あ。
「…お邪魔してます」
ひとまず小さく会釈を返した。桜の上に乗っかったまま。
ちょっと待て。
なんかこれは頂けない雰囲気だ。
「……」
「……」
「お邪魔なのは私かしら。ねえ?」
首をかしげる彼女は桜の母親らしき人物。
こう言っては失礼かもしれないがかなりかわいらしい仕種だ。
そしてどこと無く桜に似ている。
「全く持って誤解です」
「あらまあ」
あらまあ。
これはあれだ。信じてないぞ。
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