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そうだ、と桜母が思い立ったように声を上げる。
俺と桜が同時に振り返ると、彼女はぽんっと手を打って微笑んだ。
「二人で写真撮りましょ!」
桜はぽかん、と口を開けて困惑の表情。それにかまわず彼女は早速、といわんばかりに桜の部屋にカメラを取りに行った。
「…お前オレが寝てるときに母さんと何話してたんだよ」
二人になったリビングで桜はじっと俺を見る。
「いや、なにも…?」
何となしに目を逸らしてしまった。さらに問い詰められるようなそれが痛い。
「えーっと。そうだ、素敵な人だね桜のお母さん」
少し無理があったか。
いや、だってねえ?
あなたのお母さんオレのこと彼女として見てましたよ、なんて言えないし。
わお想像しただけで悪寒が。
元はといえば誤解されるようなことをしていた自分が元凶なのだが、それも含めて桜にはますます言えない。
「あ、そう。それはありがとう…なのか?」
真顔で首を傾げた桜に吹き出してしまう。
どこまでも真面目なんだ。
「桜に似て、ね」
「…それは、あああり」
「ふふふー」
「な、に」
「やっぱり桜は彼女だよね」
「意味わからん」
ぶつぶつ文句を言いながらもなぜか乗り気になっている自分。
うん楽しい。
「はいチーズ!」
直前に至近距離で見た彼は想像通りの仏頂面というもので思わず吹き出してしまった俺。
多分これは満面の笑顔で映ったな。
「焼き増しお願いします」
「もちろん。ちゃんと渡してあげなさいよ、桜」
「…イヤだ」
桜母と顔を見合わせて笑った。
きっと桜は律儀に俺の分も焼き増ししてくれたんだろうなあ。
取りに行けなくて、ごめんね。
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