一匹狼の一日

7/7

691人が本棚に入れています
本棚に追加
/113ページ
「相澤と似たりよったりじゃん。木下面白いね」 「うん。あいつ何目指してんだろ」 下を向いていればあっという間で。一瞬彼らの制服の裾が見えたけれど、それだけだった。 ああ、なんて呆気ない。 彼らの声が遠ざかっていくのを感じながらオレはホッと息をつく。 自分たちの教科書さえも忘れて移動しているアホな奴らの姿を見つけたから。 「サクくん早くっ」 「ちょ、痛いってヒナ!…おーいさっさと歩けっ」 …これがオレの一日。 つまらなくて悪かったな。 臆病なオレは、こんな些細な出来事さえも無くしたくなくて。 だから、 「お前ら手ぶらで授業受けるつもりかよ」 呆れたように手に持った教科書を掲げてみせる。 慌ててこちらへ駆けてくる二人に笑った。 …オレは振り向くことさえも恐れているんだ。 「お願い、委員長ー」 「…へいへい。ソーダ1本ね」 「ちゃっかりしてんね。青汁とかどう?母ちゃんが作りすぎちゃったって」 「おまえの母ちゃん何者」 彼は、ガラスの外に咲くサクラを見た。もうこんな季節か。 ガラスが邪魔だなんて、初めて思ったなあ。 だって、 「おーい委員長、どうかしたの」 「なにが?」 コテッと首を傾げた彼に、立ち止まる。 「だって委員長、泣きそうな顔してる」 …俺と“桜”を隔てるそれは、あまりにも重かった。 「何言ってんの、早く行こ」 「…うん」 でもそれは自分に課した罪で後悔する権利はない。 …俺は振り返らない。 そんな脆い誓いを守ることは正しいのか、その答えは多分イエス、だ。 .
/113ページ

最初のコメントを投稿しよう!

691人が本棚に入れています
本棚に追加