129人が本棚に入れています
本棚に追加
「雨やみそうにありませんね」
あえてそこは突っ込まないでおく
言い間違えだったりしたら恥をかかせちゃうしね
「そうね
貴女って高校生?」
「はい、高一です
貴女は何歳なんですか?」
私が何気なくそう尋ねてみるとその人は首を横に振る
もしかして聞いちゃいけなかったのかな……
私、デリカシーなかったかも
「私、覚えてないの
何も」
覚えてない、って……?
記憶喪失ってやつ?
そうするとさっきの『どうだったのかしら』の言い回しも納得できる
「名前も、家も、ですか?」
「名前だけは覚えているわ
近衛梢
それが私の名前よ」
家のことは何も言わないって事は家も分からないってこと……?
ということはこの人、近衛さんは帰る場所がないんだ
私の家に居候してもらおうかな、とも考える
けどお父さんもお母さんもそんなこと許してくれるはずもなくて……
でも一晩だけなら大丈夫、かな
一晩だけでもきっと大分違うよね
その間に記憶が戻るって事も考えられるし
「その、今夜だけになるかもしれませんが
帰る家がないなら私の家に来ませんか?」
私がそう言うと近衛さんはキョトンとして私の顔をのぞき込む
「いいの?
今会ったばかりの他人なのに」
私もどうしてこんなに近衛さんに親身になってあげられるのかが分からない
でも、なんでか助けてあげたい
そう思う
「会ったばかりとか関係ないですよ
困ってる人がいれば助けるのが普通じゃないですか」
私はそう近衛さんに微笑む
「迷惑じゃない?」
近衛さんは心配そうにそう話しかけてくる
私にとっては全然迷惑じゃない
親にとってはどうか分からないけど……
「大丈夫です!!
ちょっと付いてきて下さい!!」
私は近衛さんの腕を掴んだ
……つもりだった
うぅん、確かに掴んだ
掴んだ筈なのに掴めなかった
まるで近衛さんが元からそこに存在していないように私の手は近衛さんの腕をすり抜けた
「……え?」
私は驚いて間抜けな声を出してしまう
近衛さんも何が起こったのか分からないと言った様子
雨に濡れてなくて、掴めない……
近衛さんってもしかして……
最初のコメントを投稿しよう!