第参話「見出された御側室」

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家宣の推挙により、御中臈として大奥に入って来たお喜世は、程なく御台所御殿の熙子のもとへ挨拶に訪れた。 「お喜世と申します。御台様におかれましては、ご機嫌麗しゅう、恐悦至極に存じ(たてまつ)りまする。 上様の思し召しにより、此度 御中臈として大奥へ出仕致しました。どうぞ、お見知り置き下さいませ」 「──そなたの事は上様からよう伺うております。大奥でのしきたり、作法など、わからない事があれば遠慮のうお訊き下され」 「畏れ入り奉ります」 御台所の言葉に、お喜世は素直に礼を述べる。 「奥に入ったばかりで、何かと不自由な事もございましょう。暫しの間は、この錦小路に付き従うがよい。……錦、頼みましたぞ」 「──はい」 熙子に言われ、部屋の隅に控えていた錦小路は軽く一礼した。 お喜世が錦小路の方へ向き直り頭を垂れると、ふと錦小路付きの江島と目が合う。 江島がお喜世に会釈すると、反射的にお喜世も会釈を返した。 熙子の部屋を後にしたお喜世は、対面所にて間部詮房と対座した。 「まずは、大奥御出仕おめでとう存じます」 詮房はお喜世に喜びの言葉を述べる。 「有り難うございます。……実は先ほど、御台様の御前に参じたのですが、御台様より錦小路様に付き従うようにと、ご命を受けたのです」 「ほお、錦小路様に? それはよろしゅうございました。錦小路様は大奥総取締。お側にてお仕えしていれば、何かとお力になって下さる事でしょう」 微笑む詮房に、お喜世は不安そうな表情を浮かべた。 「何か、お気にかかる事でも…?」 詮房は伺う。 「──間部様は、私を大奥に上げるのは、偏に上様の御側室として差し出す為と、そう仰いました」 「──左様です」 「それならば、御台様寄りの錦小路様に付き従っていては、その機を逃してしまう恐れがあるのではございませぬか…?」 お喜世の問いに、詮房は微笑みを崩さず答える。 「それについてはご安心を。御側室は、上様のご一存のみならず、御年寄の方々のご推挙によって、 上様のお側へ召し出される事もありまする。筆頭御年寄の錦小路様に付いておれば、尚更その機に乗じ易いかと」 「……では、上様のお側には今どのような御方々が?」 お喜世は城中に敵となる者がいないか、確かめておきたかった。
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