千鳥が淵の桜の下で

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純子は高校受験をしなかった。 もちろん行けないわけではないが家族と話し合った結果だ。 私は二月のバレンタインの日に 彼女を見舞った。 東京では珍しく雪の降る日だった。 病室で 『純子、野球部さ、秋季大会でブロック優勝したから次は都大会だよ。見てほしいな』 『うん・・・見たい・・・誠の雄姿、見たいな・・・。』 『来いよ、家族にも伝えてあるから絶対来いよ』 『うん。行く。もう最後になるだろうし・・・見るの・・・』 『馬鹿言ってるなよ・・・甲子園まで連れていくって、あん時言ったじゃん。弱音吐くなよ』 『誠・・・強くなったね・・・私がいなくてももう大丈夫だね・・・』 『・・・・馬鹿言うな・・・』 私はボロボロと泣きながら純子を抱きしめた。 こんなに細かったっけ・・・ もうこの頃には純子の体重は35kgくらいだった。 強く抱けば折れそうなほど・・・ 『純子・・・俺何もしてやれなくてごめん・・・。でも甲子園には連れて行きたいんだ。最初で最後の約束じゃん・・・。』 『うん・・・誠が甲子園で活躍する姿・・・見たい・・・絶対見たい・・・』 私が高校生になり甲子園に行くまで最短でも1年半はかかる事を分かっている。 だが、純子に希望を持たせてあげたい・・・そんな気持ちで・・・それだけの気持ちで・・・甲子園を口にした。
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