虚空の城

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「直接言われたよ…… 第一声に 」  そう、彼の父親は睨み付けて詰ったのだ。 「そうか…… 酷いな 」  従兄弟は眉間に皺を寄せ苦々しい顔をした。 「殺ってないんだろ? 」 「ああ 」  彼は母親の顔が見えていた辺りに目を遣った。もうそこには無い母親の見開いた目玉がギョロリと動いた気がした。  彼は風呂に入ったり着替えたりしたかった。従兄弟にその旨を伝え、自室に入る。  彼は床にぺたりと座り込んだ。  ――荒らされている!  彼の聖域は何者かによって蹂躙されていた。  ――何で? 誰が?  彼の混乱は頂点に達し、何も思い付かなくなっていた。数分そうしていたが、身体が機械的に片付けを始めていた。無くなった物は無いようだ。  倒された本棚を元に戻し、あいうえお順に本を戻す。ぶちまけられた引出しを拾い上げ、中身を大きさ別にしまう。  彼の部屋には大した家具は無い。八畳の部屋には、シングルのベッド、その下に引き出し二つ。ここには部屋着と下着とシーツ、枕カバーが入っている。それから半間くらいの本棚。小説と新書が主で、漫画は一冊も無い。部屋の真ん中には祖父母が使っていた長方形のお膳。床の間にパソコンデスクとパソコン、プリンター。椅子と書類を整理する様な10段の引出し。押入れの中、下の段には押入れ箪笥。ここには服がしまわれている。上の段には祖父母の遺品。値打ち物は無い。日用品のみだ。  倒されていたのは、本棚とパソコン脇の10段の引出し。勿論、パソコンも少しずれていたし、お膳も斜めになっていたが、壊れてはいない様だった。  ――親父か?  漸く脳が機能し始めたのは、全てを片し終わった時だった。コンコンとノックの音がした。ドアを開けると従兄弟が立っていた。
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