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「ひぃちゃんもうあがっていいよ。」
店内の客の状況を見ながら黄馬が厨房の緋色に声をかけた。
「いや、でも…。」
カフェバーの厨房の一切を任されている緋色は、黄馬の言葉に渋っていた。
「もう、がっつり飯食う客はいないだろうし…。
ひぃちゃん一応病人だし…。
今日はもう閉めるよ。」
黄馬の言葉に時計に目を移すと…10時少し前。
閉店時間の二時間も前だ。
「まじかよ。まだ10時だぜ。」
緋色の言葉に黄馬は悪びれる様子もなく微笑んだ。
「いいのいいの。
緑葉、看板片付けてきて。」
ホールにいた緑葉が時計に目をやる。
そして、不思議そうな顔で緋色を見た。
そんな緑葉に緋色はお手上げのポーズを返す。
「緑葉早く。」
黄馬に急かされた緑葉が店の外に姿を消した。
「超ワンマン。」
すっかり客の引けた店内で後片付けをしながら呟いた緋色に、
「ひぃちゃんに無理させたくないっていう俺の愛情じゃん。」
黄馬が笑う。
「どうせ、ゲームしたいだけだろ。
俺を理由にしないでよ。」
緋色の言葉に、図星をつかれた黄馬の顔がひきつる。
「ま、いいじゃんたまには…。
ほんじゃ、お疲れ~!
お先に~。」
鼻歌を歌いながら、黄馬が帰っていった。
そんな黄馬の後ろ姿に苦笑いをして、生ゴミの処理を始めた緋色は、突然の吐き気にトイレに駆け込んだ。
やべぇ
世に言うところの悪阻か?
「マジかよ…」
妊娠を否定できなくなるような状況に、
緋色はしばらくその場を動けなかった。
「ひぃちゃん大丈夫?
いいよ。後は俺がやっておくから帰りなよ。」
トイレから出た緋色に緑葉が心配そうに駆け寄る。
「ごめん。そうさせてもらうよ。」
「うん。ゆっくり休んでね。」
心配そうな緑葉の瞳に見送られて、緋色は家路についた。
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