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「おめでとうございます。
妊娠3ヶ月ですね。」
にこやかに最終判定を下す医者を緋色は呆然と眺めていた。
店が休みの今日、そのままにしておくわけにはいかないので…緋色は産婦人科を訪ねた。
間違いでしたという言葉を期待していた緋色は、
妊娠3ヶ月という事実を上手く受け止められないでいた。
「出産しますか?」
医者の言葉に、
考えさせて下さいとだけ告げて…
産婦人科を後にした。
「俺、どうしたらいいんだろ。」
帰り道、歩道橋の上に立ち止まった緋色は流れゆく車をただ見つめていた。
紫月に話すべきなんだろうか…
だけど、話したところでどうなるんだろう。
もともと、緋色は紫月の恋人ってわけじゃないし… 紫月には美人な彼女がいる事を緋色は知っている。
「言えないよな。」
ため息をついて、緋色はふたりで暮らすマンションに足を向けた。
「ただいま。」
緋色がリビングに入ると、紫月とその彼女がソファーに腰をかけて映画鑑賞中だった。
「おかえり、ちょうどよかった。
腹減ったんだよな、何か作ってよ。」
紫月の言葉に頷いて、キッチンに向かい冷蔵庫を開けた。
有り合わせの食材でパスタとスープ、サラダを作り、バケットを温めて…2人の前に置くと紫月は何も言わずに食べ始めた。
仲睦まじそうなふたりの姿。
その様子をダイニングチェアーから眺めて、緋色はそっと自分のお腹に手を当てた。
自分の中に宿った小さな命。
だけど、きっと産んであげる事は出来ない。
緋色の心がチクリと痛んだ。
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