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「アジテーター、了解」
感情は込めない。込める必要なんて無い。
『それでは、ASA-X002の起動シークエンスを開始します』
彼の感情を読み取ることもなく、"調教師"の名を持つ女性は作業を続ける。
『オペレーションシステム起動、並びに電子ロック解除』
各関節に仕込まれた拘束具が音を立てて解除され、顔面を囲むように目映い光の帯が彼の瞳に突き刺さっていく。
闇が一瞬で光に反転したことで、脳内の視覚情報が錯綜する。色だけしか判別出来ず、映っているであろう文字をすぐに認識出来ない。
『動作チェックをお願いします』
テイマーの指示通りに身体の各部をほんの少し動かす。足首や肘、指は曲がるが彼の全身を締め付ける物質が彼がイメージする動きを著しく制限している。
「動作チェック異常なし」
だが今はこれで問題なかった。
その間に錯綜した視覚が安定し、彼の脳に"ASA-X002 oracle"と見慣れた文字列が刷り込まれ、その奥に光の帯の先にある薄暗い景色が見えた。
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