隣の化学教師

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あれは、体育教師である黒鋼がこの学園に赴任した直後だった。 この私立学園は、此処の理事長が自分の私財だけで完成させた初等部から大学院までを設けた完全寮制の巨大な学園都市である。一部この国の中枢を牛耳る政治家や大企業の子息、令嬢といった良家の血縁者達なども通っている。 敷地が実に広くショッピングモールや映画館、病院、その他生活に必要な公共施設が殆ど揃っている。 実に複雑な造りをした、迷路のような敷地を黒鋼は一人、ある人物に呼び出されとある場所に向かい歩いていた。 かなり、アバウトに描かれた地図を睨みつけながら進んでいるものの、目当ての 場所は何処なのかまるで解らない。 唯一分かるとしたら此処が高等部の校舎であることは間違いない、と思う。 内心で深いため息をついて周りを見回していると後ろから声を掛けられた。 「あれ?黒、鋼、先生ですよね?」 黒鋼が振り返った先には一人の男子生徒が立っていた。 「お前は、」 見たところ高等部の学生であることは解るがそれ以外は解らない。 「あ、おれは四月一日(ワタヌキ)って言います」 男子生徒はにこやかに名乗ると先週赴任していらした黒鋼先生でしたよね?と、もう一度確認するように聞いた。 髪の毛が所々跳ねている。癖っ毛なんだろうか、とどうでもいいことを思いながら頷いた。 四月一日は少し不思議そうに黒鋼を見た 「先生はどうして此処に?」
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