Ⅰ Sora の 謎

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昔、といっても 五ヶ月くらいしか 経ってはいないが、 この国を一斉風靡した アーティストがいた。 知らないものなど いないだろう。 名を、Soraという。 Soraは 主に作曲とボーカルを 担当していて、 彼女が作り出す音は 懐かしく、悲しく、 でもまっさら空のように 清々しい、そんな曲であった。 そこに明るい感情はなく、 悲しみや怒り、 嘆きなどが歌われ、 それは透き通るような声をする彼女にとてもしっくりとあっていた。 その暗く、 それでも美しい音楽に、 人々は共感を覚え、 そして虜となった。 経済は低迷し、株価は暴落、 そんな社会に 政治は打つ手を見失い、 そこに救いなど微塵もない。 形だけの明るさを、 メディアに求めるものもいた。 だがすぐに、 それはやはり形だけなのだと みなは気づき、 気休めにしかならなかった。 そんな時に現れたのが、 Soraだ。 Soraの歌は、 嘆きは、悲しみは、 自分たち自身のものだと、 Soraの歌を聞いた誰もが感じた。 Sora自身が、 何をしたわけでもなかった。 Soraはただ、 歌を歌っているだけであった。 それでも、 声を高らかにみなは言う。 そこに救いはあったのだと…。 それが、Soraのすべてだと…。 ‐J-POP雑誌『Singervision』歌姫・Sora特集より一部抜粋‐
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