薄桜鬼・土方歳三

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【天の川】 今日は巡察に着いて行かない日であった為、私は部屋の縁側に座って夕暮れに染まる空を眺めていた。 「今日は七夕か…一年に一度の逢瀬を楽しむ織姫と彦星……。」 父様と一緒に江戸にいた頃は短冊に願い事を書いて笹に吊るしていた懐かしい子供時代。 私は机に向かって短冊に願い事を書き始める。 「叶うハズもないけれど…願うだけなら良いよね?」 あの雪の舞い散る夜にあの人に出会った。 その時はこんな想いを抱くことになるなんて思っていなかったのに、今では一年に一度だけでも愛しい人に会うことが出来る織姫と彦星が羨ましく思う。 「土方さんと…だなんてあり得ないのに……。」 私はしたためた短冊を見ながら自重気味に笑うと、その短冊を机の上に置いて夕餉を取るため部屋を出た。 §§§§§§§ 「**、ちょっと良いか?」 夕餉を戴いてから部屋に戻ろうと廊下を歩いていたら土方さんに呼び止められた。 「えっ?はっはい…何でしょうか?」 私はキョトンとしながら土方さんを見上げる。 「少し野暮用があってな…悪いが**に着いて来てほしい。」 「えっ?私…ですか? 構いませんけど……。」 断る理由も無いので私が了承すると土方さんは準備が出来たら部屋に来い。とだけ言って去ってしまった。 §§§§§§§ 部屋に一度戻った私は机の上に置いたままになっている短冊の事を思い出した。 「見られたら嫌だし…一応持っとこうかな。」 短冊を着物の中に仕舞うと足早に土方さんの部屋に向かった。 私と土方さんは直ぐに屯所を出て歩き始める。 「あのっ…用事って何ですか?」 「行けばわかる。」 土方さんはそれだけ言うと黙ってしまった。 長い沈黙が続き、どうしようかと思っていたら土方さんの足が止まった。 「ここは…鴨川?」 考えながら歩いていた私はいつの間にか鴨川の河川敷まで来ていた。 「ここなら屯所よりずっと空が広いだろ?」 「えっ?」 土方さんの言葉に空を仰ぐと、空一面に星がキラキラと輝いていて天の川がハッキリと確認出来た。 「わあ…回りに何もないから星の川がずーと遠くまで見える……。」
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