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【怪我】
夕餉を済ませた私は洗い物をするために一人井戸の前にいた。
「痛っ……。」
井戸で水を汲んでいた私だったが、手首に走った痛みで思わず水の入った桶を落としてしまった。
中に入っていた水が盛大に飛び散り地面に染み込んで行く。
「気を付けてたのに……。」
私は桶を左手で拾うとそれを地面に置き直し、痛む右手首を押さえる。
「なかなか治ってくれないから困るな……。」
私は軽くため息をつく。
昼間、巡察に同行していた時に不逞浪士達とのいざこざがあったのだが、その時突き飛ばされてしまい地面に手をついてしまった。
つき方が悪かったんだろう。
手首に痛みが走ったが、鬼である私の治癒力なら問題ないと思い隊士の皆には黙っていた…が切り傷と違ってなかなか治らない。
「もしかして…捻挫じゃなくて骨までやっちゃったかな……。」
一人で呟いていると不意に声をかけられた。
「**、そんな所でつっ立ってどうした?」
「ひっ土方さん…いえ、何でも無いです!!」
声をかけてきたのは土方さん。
私は慌てて水を汲み直そうと桶を手に取るが慌てて怪我している右手で取ってしまった。
「っ……。」
また痛みが走り思わず表情が歪む。
それを土方さんは見逃さなかった。
「**…お前怪我してるのか?」
「えっ?そっそんなことありませんよ。
ちょっとつっちゃって……あっ。」
私は笑いながら誤魔化すが土方さんは真剣な表情のまま私の右手を掴んだ。
「痛っ……!」
思わず口に出してしまった言葉にハッとするが既に遅かった。
「腫れてるじゃねえか…一体いつこんな怪我をした?」
着物の袖で上手く隠していたのだが土方さんは躊躇いもせず私の袖をまくった。
私はうつむきながら事情を説明する。
「ったく…何でこんな怪我してるのに黙ってたんだ……。」
「その…直ぐに治ると思って……。」
「バカ野郎!
そんな問題じゃねえんだよ!!」
土方さんに怒鳴られた私は驚きからビクッと反応すると、うなだれながら謝罪する。
「すっすいません……。」
「**…お前な。直ぐに治るとかそんな問題じゃねえんだ……
他の奴等に気ぃ使うのも良いがな…もっと自分を大切にしろ。」
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