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【小さな願い】
「うーん…思わず買ってしまったケド…全く意味がわからないなぁ。」
昼間の数刻の間だけ外出が許された私は一人で京の町を散策していた。
「文字は読めるケド…どんな意味なんだろう?」
散策をしているうちにある古本が目に入り、思わず買ってしまった訳だか文字こそ読めるものの全く意味が解らないでいた。
「皆になんて言おう…土方さんが好きな文学がどんなものか気になった…なんて言えないよね。」
私が買った本の名前は【百人一首】。
土方さんが俳句を好んでいる事は知っていたので興味は持っていたのだが、俳句の本を持っていてはあからさま過ぎるので和歌の本を買った私は買ってから少々困っていた。
皆に見つかればいささかややこしくなるだろうと判断した私は、この本を隠し通すと決めて屯所に戻った。
§§§§§§
「意味が解らなくても結構面白いなぁ。
うう…文学にも興味を持っておくんだった。」
屯所に戻って夕餉のお手伝いをして自身も夕餉を済ませた後に自室に戻って、蝋燭の灯りの元、昼間買った本を読んでいた。
「どれも綺麗な言葉ばかり…昔の人って凄い………んっ?」
平安時代の貴族達が書き残した和歌を読みながら関心していた私はある俳句に目が止まった。
「これどんな意味なんだろう…うーん。」
何故かある一首が気になってしまった私。
調べる術を持たない私は途方に暮れたが、悩み抜いた末に自室を離れ、ある部屋の前で立ち止まり声をかける。
「あの…山南さん。少し良いですか?」
「雪村くん?構いませんよ、入ってください。」
恐る恐る声をかけると部屋の中から穏やかな優しい声音が返ってくる。
そう、私が訪ねたのはなくなった事になっている山南さんの部屋だった。
「失礼します。」と一言断って中に入ると机に向かっていた山南さんは、身体の向きを私の方に向けて穏やかな表情で尋ねてきた。
「こんな時間に私の部屋に来るなんて…何かありましたか?」
「いえ…その…こんな事の為に足を運んではいけないと思ったんですけど………この和歌の意味を知りたくて。
山南さんなら解るんじゃないかと。」
もっと深刻な話なのかと思っていたのか山南さんは目を丸くしながら私が差し出した本を手に取った。
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