薄桜鬼・土方歳三

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「百人一首ですか…また古風な物を見つけてきましたね。」 「すいません……。」 山南さんは私の手渡した本を数ページ目で追うと、穏やかな笑顔を向けてくれた。 「構いませんよ。 薬の研究に明け暮れている毎日…たまには薬以外の話も良いでしょう。 どの意味が知りたいのですか?」 「ありがとうございます! あの…この和歌なんですケド…女の方が読んでいる…。」 私は山南さんに勢い良く頭を下げると、自分が気になっている和歌を指差した。 「玉の緒よ 絶えなば絶えね ながらへば 忍ぶることの 弱りもぞする……雪村くんもやはり女性ですね。」 山南さんは和歌を読むとどこか含みのある笑みを浮かべながら私を見る。 「どうゆう事ですか?」 「これは恋の歌なんですよ。」 山南さんの言葉に思わず私はえっ?と声に出してしまった。 山南さんが私の方に本を向けて解説してくれる。 「玉の緒と言うのは魂…つまり命の事です。 忍ぶという言葉は忍ぶ心……隠すと思えば良いでしょう。 弱りもぞつる…は言葉の通り弱ってしまう。 わかりますか?」 「はっはい…大丈夫です。」 「解りやすく訳すれば『絶えるならいっそこの命よ、絶えてしまえ。 このまま生きていると この恋を忍ぶ気持ちが弱って、皆に知られてしまいそうだから…』と言う意味になります。 内親王…つまり皇女は独身で生涯を終える事が殆どだった様ですから、叶わぬ恋を歌ったのでしょう。」 「そっそうだったんですか…。 わざわざありがとうございました!」 和歌の意味を知った私は山南さんに再び頭を下げると本を持って退室し、自室の前まで帰ってきた。 §§§§§§§§ 「この和歌…あんな気持ちが込められていたんだ…。」 私は自室の前の縁側に腰を降ろすと月明かりの元でまた本を開く。 「この恋を忍ぶ気持ちが弱って、皆に知られてしまいそうだから…か。 何だか解る気がする。」 山南さんに教えてもらった歌の意味を思い返しながら本を眺める。 次第に涙が出てきて開いていたページが涙でポツリポツリと濡れてしまった。 「私も……この人と同じだ……。」 溢れ出す涙が止まらず、私は両手で顔を覆う。
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