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彼女と付き合うことになった。勿論俺はためらった。また、悲しい思いをするかもしれない。それ以上に、彼女を酷い目に遭わせてしまうかもしれない。それなのに、彼女はそれでも俺と一緒に居たいと言ってくれた。最早彼女に心を奪われている俺にそんな彼女の言葉を拒めるはずもなかった。こうして俺たちは付き合うことになったのだ。俺たちは周りの人から見ると、所謂ラブラブに見えるらしい。ま、実際ラブラブだからそう見られても構わないが。むしろ、彼女に変な虫がつかなくていいと思うくらいだった。こうして俺たちは幸せな日々を過ごしていた。だけど、そんな日がいつまでも続くわけもなく、俺は他の男と楽しそうにしている彼女を見てしまった。一瞬にして俺の心が真っ黒に染まった。
俺は彼女を自分の部屋に呼んだ。そして一緒に居た男の事を聞いた。
「ねえ、あの男は誰なの?」
「ただの友達、だよ?」
「本当に?」
俺は彼女が嘘を吐くわけがないと思っていた。一方で彼女が嘘を吐かないわけでもないと思っていた。この矛盾した考えが俺の頭を占めていた。彼女は俺のものだ。誰にも渡さない。誰にも見せたくない。彼女を見るのは俺だけでいい。今思い返せばこれまでもそう思っていた。今この光景も、以前見たことがある気がする。嗚呼、そうか。これまで俺が好きになった人が死んでしまった時にこの光景を見たんだ。
「君は俺の、俺だけのものだ」
俺がそう言った瞬間、彼女はその場に倒れて動かなくなった。腹部からは大量の出血。俺の足元には血の付いた包丁が落ちている。頬に生温かい感触を感じた。自分の頬を触ってみる。そして触った手を見ると赤い液体が付着している。それは――彼女の返り血だった。
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