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『さてと……』
翔はかなり太いニードルを取り出しながら妖しく微笑んだ
その横顔に思わず見取れてしまった俺がそこに居た
「その注射針で何をするつもりだ?」
『これは注射針じゃなくてニードルって言ってね……まぁ、似たような物だけど違う所が一つだけあるんだ』
「違う所?」
『そう、ほら穴が見える程太い』
「ひっ!」
『これを……あっ、和海の方が上手いかな』
「血管に?」
『いっちゃって~』
「はい」
「やめろ……痛いのは嫌だ!」
『クスッ、痛いだけじゃないよ』
「どういう意味……だ」
その時、和海が素早くニードルを腕の血管に刺した
「いっ……」
『ほら、わかる?』
ニードルの先から血が滴り落ちるのを指さしながら言った
「やめろっ!早く抜いてくれっ」
『大丈夫だよ、簡単には死なない……でもこの流れ方だと朝まではもたないね』
「やめてくれ…頼む」
『だから~、水鶏の居場所を教えてくれたらすぐ抜いてあげる』
「あの……翔様」
『ん?』
「その言い方はなんとなくムカつきます」
『へっ?抜くってやつ?』
「はい……」
『やだなぁ~、和海のエロ』
「………エロでも何でもいいです」
『んじゃ、引っこ抜くでいい?』
「それなら」
『はいはい』
そんな呑気な話をしている間にも血はとめどなく流れていた
『じゃ、質問……水鶏はどこ?』
「………………」
『あそ、じゃ和海……帰ろうか』
「そうですね、この別荘には誰も来ませんし死体も骨になるだけです」
『だね、ゆっくり自分の死に様を楽しむんだね』
そう言って歩き出そうとした時
「待て!待ってくれ!」
血の海のシーツを見て漸く死の恐怖に気付いた男がかすれた声で呼び止めた
その声を聞いた翔が一瞬笑い振り返った
『何?』
「わかった……教えるから……」
『もし嘘を教えたら今度は殺すよ?』
「嘘じゃない!水鶏の居場所は……」
やはりこんな男でも命は惜しいらしい
さっきまで強気だったはずなのに今は仲間の居場所を話す裏切り者
翔は男の片腕だけ自由にして別荘を後にした
「止血出来るでしょうか」
『大丈夫、絆創膏をサービスで置いておいたから』
「クスッ」
『ふふっ』
死にはしないが今頃慌ててニードルを抜いているに違いない
体を痛め付ける事もなくたった1本のニードルで居場所を聞き出した翔
いや、ある意味精神的に
痛め付けた事になるのかも知れないな……
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