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ある日、小夜子(さよこ)は朗雄(あきお)の前に赤ん坊を連れて現れた。
「ひめちゃんを一人でお留守番させるわけにはいかないから……」
赤子の名は緋芽(ひめ)といった。
あどけない顔をして、小夜子の腕に抱かれている。
朗雄は少し驚いたものの、今更家に帰す訳にもいかないので、戸惑いつつもそれを受け入れた。
緋芽は愛くるしい視線を朗雄に投げ掛けていた。
生涯“姫”という名を背負って過ごすのはどういった気分なんだろう?
朗雄は疑問を胸に抱きながら、円らな瞳を覗き込んだ。
その無垢な眼差しはただ真っ直ぐに、未形成な世界を捉えるのみだった。
緋芽は怯える様子もなく、目に映る影を、ただひたすらに焼き付けていた。
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