セナカアワセ

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熱いシャワーに長く当たり過ぎた。 未だ火照る身体を落ち着かせる為に、 エアコンの温度を下げる。 調整された空調に満たされる部屋。 じっとりと溢れ出す汗を手の甲で拭う。 フローリングの床に直に座り、手元にあった雑誌に視線を落とす。 …と言っても、内容なんか全然頭に入ってこない。 ただ文章を追うだけ。 集中力が続かない。 小さくため息をついたところで、 コンコン… ドアをノックする音が部屋に響く。 察しはついたけど、 あえて返事はしない。 『…チャンミ?』 扉の向こうでぐもる声。 ほら。 やっぱり予想通りの人物。 それでも返事をしないでいると、 痺れを切らしたように、扉が勝手に開かれる。 「…なんだ。起きてたんじゃん」 悪いんですか? 切り返そうと思いつつも、声にはしない。 意固地になっているのは分かっているけど。 無言を貫く。 昼からずっと。 「…ふぅ」 あからさまな溜息をもらし、 空気の動く気配。 背中越しにその気配を感じながら、 ただ文章を視線で追いつづける。 「よっと」 声とほぼ同時に、 背中にピタッとくっついた感覚。 多分。 背中を合わせている。 火照る身体でも、 判るくらいに熱い体温が背中越しに伝わって来る。 早まる鼓動。 モゾモゾと動く振動も、呼吸のリズムも伝わってくる。 足元にあるケータイが着信を告げた。 .
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