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薄暗く、人気のない部室棟の片隅。足を進める毎に軋む床が、よりいっそう、『そういう』雰囲気を高める。
……だけど、こんな場所だけれど、『あの人』はいる。
歩を進めると、棟の一番端にプレートが見えてきた。
『文芸部』
「……行くか」
俺は、扉を開け放った。
「……ねぇ、来人」
部室から光が廊下に溢れた。
そこにいたのは、一人の女性。長い黒髪は光を浴びて、惜しみなくそのツヤを披露する。
目が慣れて、視界がはっきりすると、その姿がくっきりと見える。椅子に座り、膝の上に本をのせていた。そんな格好もまた、優雅さを助長させている。
世界三大美女、というのがこの世にはあるが、この人も加わってもいいと思う。いや、むしろ三大を通り越して、頂点に立つのではないか?
……いかんいかん、思考が飛んでいた。落ち着け、俺。この人、いくら美人でも、違うのだ。
「……なんですか、部長」
俺は、言語という極めて理性的な手段をもって、彼女に聞いた。
それに対し、そんな美しい彼女が発した言葉は――。
「私、ヤムチャってそんなに弱くないと思うの」
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