A love robber

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「げんこさんが、…………いえ、私一人暮らしですからけんかとかそういうのは」  たしかに普段同居人がいる様子はないし、一人暮らしは本当だろう。それよりも少し口から出かけた『げんこさん』の方が気になった。  げんこさんとは、僕らのアパートの一階で営業しているカレー屋のことだ。いつもその換気扇からはカレーのにおいを漂わせていて、そこそこの人気もある。  ふと、わき出た好奇心からげんこさんのことをほり返してみようと思った。……のだが、  ぐぅぅ、開きかけた僕の口を、寝静まった夜空にひびきわたるひときわ大きな音が制した。  音の主が再び合わせられたひざに顔をうずめる。長い髪からかすかにのぞく耳が赤い。 「よかったら食べますか」 ビニール袋をかさかさまさぐって、バイト先でもらってきた高菜のおにぎりを取り出した。  ゆっくりと上げられた彼女の顔は、耳と同じでほてっていた。
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