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「私、……貧乏なんです」
所々に嗚咽を交えつつも、彼女は身の上について語ってくれた。
公園にいるのは、げんこさんのカレーのにおいが空腹にしみるからだということ。子供たちと遊んでいると空腹を忘れられるということ。お気に入りのワンピースは、今は亡き母の形見なのだということ。
「私ね、一度でいいから思いっきりぜいたくがしてみたいな」
「いいですね。僕も貧乏学生だからそういうの憧れます」
この一言が効いたようだ。彼女の心の扉が開く音が、かちゃりと聞こえた気がした。
貧しいとはいえ年頃の娘さんだ。夢なんて、その小さな胸に抱えきれないほどあるに違いない。
「いつかげんこさんの日替わりカレーを全種類制覇してやるんだ」
ぜいたくと呼ぶには少々スケールに欠けるが、なんともほほえましい目標だ。
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