遺書

5/5
前へ
/49ページ
次へ
 いつかの坊主のいうように、命に先だって理由が存在するのが本来の有りようであるべきだろう。  人はいつだって生きる理由を持たずに生まれてくる。  理由に生かされている私は家畜と同じ。違いがあるとすれば、それは私が死んでも誰も私を食べはしないだろうということ。  いや、家畜は食べられるという目的のために生かされているのだから、私なぞよりもずっと立派だ。  たびたび私が死を口にするとき、皆はこういう。生きていればそのうちいいことがあるのだと。とはいえ、私は皆のいうところのいいことを享受する為に生まれてきたわけではないと思えてならないのだ。  私の生涯をかけて導き出した死に神への回答は、唯一この文言のもとに集約される。  どうやらこの遺書の最後を括る一文はこれしかあるまい。 「私にはわからなかった。」  これでよい。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加