『ヴァンパイア・シンドローム』

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 私がこの美声に酔ってしまいそうになったのはきっと、この部屋もまた、先ほどの廊下と同じように暗闇の中にあるせいだと思う。  そもそも廊下が暗いのは、この部屋に少しの光も入ってこないようにするための措置にすぎない。  彼の顔はパソコンを向いたままだし、彼の腰掛けるソファの背が私との間にあるものだから、私からは、彼の癖っ毛しか見ることはできない。  その髪の色が白なのか銀なのか、モニターが漏らす光からだけでははっきりとわからない。 「今朝はベンガルから良い茶葉が届いたそうです。給仕長がとても喜んでいました」  彼と二人きりになれるこの時間、紅茶を淹れる前の、このポットを温めるひと手間にさえ心がおどる。 「せっかくの茶葉ですから、今日はシナモンはお入れにならないほうがよろしいかと」 「君はまだ僕のことがわかっていないようだね」  こちらを振り返る彼の顔はもの悲しい。 「申し訳ありません。……では、私の血はいかがでしょう?」  彼について私が知らないことはたくさんある。紅茶にシナモンを入れて飲むのが好きなのは知っている。でも、どうして彼が自分のことを吸血鬼だと言いはるのかなんて私にはわからない。
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