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私にとっては彼はいわば神の子だというのに。
「おいで深紅、少し話そう」
言って彼はとなりに私が座れるように体を横にずらす。
私が初めてこの部屋を訪れたとき、彼はまだ電脳ミュージシャンではなかった。現在のようなカリスマ性もその片鱗すらなく、ただただ初めてみる私に酷く怯えていた。
私のほうは職なんて持っているはずもなかったし、彼に人でなしの過去を見透かされているのではないかと、あの時彼の目を見ていられなかった。
それが今、隣どうし互いの目を見つめあっている。
「吸血鬼が血を吸うことは、本当は嗜好でしかないんだよ」
彼のすらりと長い指が私の指に触れる。わずかな光のもとで見えたその指は痩せこけていて、骨は浮き出ていた。
「贋咲様! このようなお部屋にずっといらしては、今にきっと体を病んでしまいます」
「……そうかもしれないね。でも煙になって消えてしまうわけにはいかないよ。この画面の向こうにはたくさんの人間が、僕の新曲を待っているからね」
「でしたらせめて夜中にお散歩でもなさって」
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