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私は偲(しのぶ)。名前は母がつけた。
父は私が産まれる直前に死に、当時の母はというと、腹に私を抱えたまま心中することさえ考えたそうだ。
そんなこんなで私の名前は偲。母が亡き夫を偲んでつけた。
「タブレットPCよ。わかる? フツーのじゃなくてね、ペン付きの」
八畳一間の狭苦しい部屋に、ふてぶてしく横たわっているこの豚が、その母だ。上下黒のジャージ姿をしているから、黒豚と呼んでもいい。
母のぶっとい脚を枕にして、男が寝ている。私はこの男のことを心の中で「ヤクチュー」と呼んでいる。別に薬物依存だからというわけではなくて、いや、ひょっとすると本当にそうだったりするのかもしれないけれど、呼び名の由来はそこではない。この不良男、頭の後ろに細い三つ編みを一本垂らしていて、私にはそれが歴史の教科書でみた、辮髪(べんぱつ)の中国人にしかみえないからだ。写真の中の彼らは皆、アヘンを吸ってマヌケな顔をしていた。
「ぁあ? タブレット……なんだって? おめー俺にたかってんのかよ、豚のくせしやがって」
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