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ヤクチューも母を豚と呼んだ。これには不覚にもちょっと笑えた。それでも私の顔は笑っていない。私が笑顔になれるのはいつも心の中だけだ。いつの頃からか、私は表情をなくしてしまった。
正座でこいつに出すためのリンゴの皮をむきながら、決まって思い出すことがある。
ヤクチューが初めてここにやって来たときは「この家は客に茶の一つも出さねーのか」と終始不機嫌だった。なので次に来たときはちゃんとお茶を出した。そしたら「茶ぁ? なもん飲めるかくそったれ。俺は酒しか飲まねーんだよ」と言った。だから次はお酒を出した。すると、決まりが悪そうな顔をしながら、一口含んで「や、安い酒出しやがって、これだから貧乏者は」と、飲み込めずにグラスにはき出していた。
私はいつも心の中で「ヘタレじゃん」と言う。
「おい」
ヤクチューが頭を転がしてこちらを向く。名前で呼ばないのは、たぶん私の名前を知らないのだろう。
「豚の娘なのにおめー太ってねーな。顔は……60点だな、笑わねーしな」
おまけで付けてあげても5点のお前には言われたくない。
「ねぇねぇ、わたしは? わたしは何点?」
母が丸い指でヤクチューをつついている。
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