私の名前

4/6
前へ
/49ページ
次へ
「あ? 知らね。それより、こいつ処女か」 「知らないわよそんなの、わたしにきかれても」  ひどーいと言いながら母は口をとがらせている。  私の手は止まっていた。顔にこそ出していないが、心の中では顔面蒼白だ。こいつは私の体を狙っているのだろうか。こんな奴に私は汚されてしまうのだろうか。それだけは絶対に嫌だ。 「処女ならこれくらいの顔でもそこそこの金にはなるからな。俺なら逆に金を積まれてもゴメンだけど」  よかった。安堵のため息が出た。こんな小物に犯されるくらいなら、その辺の浮浪者どもにまわされたほうがまだましだ。再び私はリンゴの皮をむき始める。 「で、どうなんだよ。おい、……おい!」  ――痛っ  背中を蹴られ、私は指を切った。結構深く切ってしまったけれど、やはり顔には出ない。 「と、とろくせえガキだな、おめーは、親に似て」  強がっていても目が泳いでいる。  母が私の傷をみた。そして、鼻で笑った。  ヤクチューは私の傷にビビったことを余裕の母に悟られまいとしたのか、今度はさっきよりも強く私を蹴った。  母がうずくまる私をみた。そして、今度は声を上げて笑った。  ――ひゅん
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

23人が本棚に入れています
本棚に追加