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始まりは、なかった。
ないわけでもないが、なにもなかった。空は灰色で、まるでなにもかもが白黒になったかのような灰色。ああ、なんでこんなことになったのか、自分でもわからない。屋上では生暖かい風が吹いていた。なにもわからない。
「ただ、ここにいたかったから」彼女はこういった。クラスメイトなんだろうけど名前すら思い出せない彼女は僕の姿を見つけてこう言った。意味がわからなかった。なにを考えていたんだろう。僕はなにを考えているんだろう。吐いた息は妙に白かった。
「いたかった?」
「あなた、私を知ってる?」
「……いや」
それだけ話して、僕達は黙った。この空気が痛かった。居たたまれなくて、フェンスの向こう側にいる彼女を見ながらフェンスに背中を押し付けてから座り込む。
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